鮫皮輸入の相談と、国際発送を覚えるまで
- 店主

- 2 日前
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鮫皮ビジネスから始まった、ちょっと不思議なご縁の話
今から数年前、ある方から突然「鮫皮を輸入して販売したい」という相談を受けたことがあった。
輸出入の仕事をしている人ではあったが、刀装具の世界に詳しいわけでもなく、鮫皮の種類や等級、相場も知らない。
ただ何となく、「輸入して売れそう」と思っただけのようだった。
鮫皮は刀の柄に巻くために欠かせない素材だが、実はとても奥が深い。
原皮の種類、加工方法、節(粒)の揃い具合、厚み。
さらに国をまたげば CITES(ワシントン条約)の規制も絡む。
その上、漁獲量や価格も安定しない。
そんな素材を「とりあえず輸入したい」と言われても、正直なところ難易度は相当に高い。
とはいえ、せっかく話を持ってきてくれたので、まずは参考用に鮫皮のサンプルを二種類取り寄せた。
そのうち一つは、濃州堂さんが扱っている鮫皮とほぼ同等の品質で、今も手元に残っている。
しかし問題はそこから先だった。
鮫皮の輸入は、価格も漁獲も在庫状況もとにかく不透明だ。
継続した供給が読めなければ商売として成り立たない。
まして刀装具業界は、職人や工房が求める数量がある程度まとまっていなければ流通が安定しない。
濃州堂さんのように「桁違いの量」を扱えるところだけが成立する世界で、個人レベルの小口輸入は最初から分が悪い。
※当店の鮫皮はすべて、品質と安定供給に優れた有限会社濃州堂さまから提供いただいております。
職方の現場では、確かなルートを持つ仕入れ先こそが仕事の土台になります。
結局、そのお方の鮫皮ビジネスは形にならず、自然と話は消えていった。
K店さんが最初から相手にしなかった理由も、今ならはっきり分かる。
プロは「成立しない話」を本能的に見抜くものだ。

鮫皮の話が落ち着いた頃、今度は海外発送の話へ
鮫皮の件がひと段落した頃、話題は自然と輸出入の話に移った。
ちょうどその時期、自分は海外の依頼主に鞘を発送する必要があった。
しかし、当時の EMS(国際スピード郵便)は今ほど簡単ではなく、書類も煩雑で、敷居が高く感じていた。
海外発送に慣れていなかった自分は、自身で手続きする自信が持てず、その知人に一度だけ代行を頼むことにした。
その方は輸出入の仕事で DHL の契約アカウントを持っており、契約運賃が適用された分だけは、こちらより一日の長があった。
実際、その発送はとても早く、無事に相手へ届いたのを覚えている。
あの頃は、「海外へ物を送る」という行為そのものが緊張する作業だった。
だからこそ、あの一回の代行はありがたかった。
今は自分の手で、世界へものを届けられるようになった
それから数年が経ち、世界は大きく変わった。
EMS は昔のような複雑さはなくなり、オンラインで全て完結できるようになった。
書類も最小限で、国際発送の心理的ハードルは大きく下がった。
いざ自分でやってみると、EMS は拍子抜けするほどすんなり出来て、そのまま習得できた。
あの頃は「海外へ物を送る」という行為そのものが緊張する作業だったが、今では手順も理解でき、思っていたよりずっと身近なものになった。
今では、鞘や刀装具、細かな金具まで、自分自身が直接海外へ発送できる。
PayPal での決済もスムーズになり、海外のお客様から直接ご依頼をいただくことも増えた。
鮫皮の輸入話で右往左往していたあの頃とは、まるで別世界だ。
いまなら、あの輸出入業者と連絡がつかなくても困らない。
自分で必要なことをすべてこなせる環境が整っている。
鮫皮の話が残してくれたもの
鮫皮ビジネス自体は形にならなかったが、あの一連の出来事から学んだことは多い。
刀装具の素材調達は、数量・継続性・品質の三拍子が揃わないと成立しない
プロの仕入れルートは “安い” 以上に “安定” が価値
濃州堂さまのような大規模な流通こそ、業界を支えている
小規模な輸入事業は、熱意だけでは乗り越えられない壁がある
そして、海外発送は「いつか自分でやるべきもの」だった
結果として、鮫皮の件も代行発送の件も、すべていまの仕事に繋がっている。
あの頃の小さなつまずきが、今の国際取引のスキルや判断力を育ててくれたのだと思う。







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