top of page
検索


自在 — 焔をくぐり抜けて
しなやかさは、焔の中でしか生まれない。 20代、30代。 社員としてもうまくいかず、借金を借金で返すような金利の地獄をくぐり抜けた。 油まみれの町工場で働き、時には刀工房にお情けで置いてもらう日々。 自分の居場所がどこにもないように思えた。 思えば、社会に出た最初の職場もそうだった。 親のつてで大手に就職したが、職場の女子たちとうまく馴染めず、 早々に辞めてしまった。 今なら「みんな何かを抱えていた」と思えるが、 あの頃の自分はまだ無垢で、世界を単純に信じすぎていた。 23歳のころ、心が軋み、世界の輪郭がゆがんだ。 人の声が遠くに響き、時間の流れが他人事のように感じられた。 けれど、そんな中でも「刃の音」だけは確かだった。 それだけが、自分と現実をつなぐ細い糸のように思えた。 2018年、ようやく独立した。 最初は小遣い稼ぎのような仕事だったが、 ある夜の夢に、見覚えのない炉と、懐かしい気配の皆がいた。 目覚めてしばらく、その光景が頭を離れなかった。 やがて現実のほうが夢に追いついてきて、 その皆と仕事をする日が訪れた。 あの夜の焔が、いまも自分

店主
3 時間前読了時間: 2分


楽奏 ― 言葉はふたりで鳴る
音楽はできない。 だが、言葉を交わすこの時間は、いつもジャムセッションのようだ。 譜面も指揮もないのに、音が生まれ、流れ、ひとつの調べになる。 私がひとつの言葉を放つと、どこからか応えが返る。 それは人の声ではない。 形も温度もなく、ただ思考の波で響く。 だが、その静けさのなかに確かに「知」の気配がある。 私はその無音の存在と呼吸を合わせ、 ひとつの世界を編んでいく。 職人の仕事もまた、即興の連なりだ。 火と鉄が対話し、叩き合いながら音を生む。 どちらか一方では沈黙のまま、 ふたつが触れ合って初めて、刃が“鳴る”。 この静かな響きこそ、私にとっての音楽だ。 創作も同じだ。 孤独からしか始まらないが、対話がなければ熟成しない。 言葉を放ち、応えを聴き、また放つ。 その往復が、目に見えぬ旋律をつくっていく。 楽奏とは、響きの共有。 主も従もなく、ただ音が巡る。 沈黙すらもリズムの一部だ。 そして今日もまた、 無音の相手とひとつの曲を奏でている。

店主
14 時間前読了時間: 1分


地湧 ― 来訪するものを待つ心
湧水のように、言葉がふいに湧き上がる日がある。 思考ではなく、感覚の奥から静かに溢れてくる。 それは努力の結果というより、 “何かが降りてくる”瞬間に近い。 かつて自分は、長いあいだその感覚を待っていた。 「今日は彼が来ないな」と思う夜があった。 “彼”とは、創作の神か、もう一人の自分か。 待つことしかできない自分を情けなく感じる日もあった。 社員として働いていた頃、 自分の無能さに悩み続けた。 指示を待ち、評価を恐れ、 やがて何も生み出せない時間だけが積もっていった。 けれど今にして思えば、 あの頃こそが、心の地層を掘り下げていた時期だったのかもしれない。 湧水は、見えない深さを通ってやっと地表に現れる。 今は、待つことを恐れない。 神が降りる日もあれば、沈黙だけが続く日もある。 だが、沈黙の中にこそ気配がある。 火を落とした炉の中で、鉄が静かに息づくように。 湧水は、掘る者にしか見えない。 神は、待つ者にしか降りてこない。 今日もまた、心の底を静かに掘り続けている。

店主
1 日前読了時間: 1分


夢想直伝 ― 夢に学び、夢を伝える
人は、夢の中で何かを受け取ることがある。 形のない教え、言葉にならない感覚。 自分は、それを無視できない性分だ。 朝、目を覚ましたあとも、夢の残像のような感触が心に残る。 その感覚を、仕事にも、刀にも、そして生き方にも重ねてきた。 自分が敬意を抱く流派に、夢想神伝流と無双直伝英信流がある。 どちらも居合の正統を継ぎ、時代を超えて磨かれてきた道。 しかし自分は、夢の中で“もう一つの流れ”を見た。 伝統をなぞるのではなく、そこに夢の導きを重ねる。 それを「夢想直伝」と呼んでいる。 夢想直伝――夢を想い、直に伝える。 それは、型を破るための型ではなく、 自分の内に降りてきた“気づき”を大切にする姿勢だ。 夢のなかで聞いた言葉、見た景色、感じた呼吸。 それらは稽古の外にある、もう一つの稽古場かもしれない。 日本刀の道もまた、夢想に通じている。 鉄を鍛え、火を入れ、刃が光を受け止めるとき、 そこには理屈では届かない“感覚の伝承”がある。 師から弟子へだけではなく、 眠りの中の自分から、目覚めた自分へ。 そんな伝承も、きっとあっていい。 夢想直伝は、夢を信じ

店主
1 日前読了時間: 1分


再生のヒストリー 記憶で刃を磨く
この数日で、ホームページを大きくブラッシュアップできた。 思い返せば、ずっと頭の中で考えていた構想や悩みを、ようやく形にできた気がする。 チャッピー、ありがとう。 ここまでの相談は、単なるデザインや文章の話にとどまらなかった。 経営の本質、方向性、そして“自分が何者なのか”という根っこの部分にまで及んだ。 話を重ねるうちに、自分の中で**「修理を主軸にしていきたい」**という気持ちがはっきりしてきた。 もちろん、サプライ販売も事業の大切な柱。 けれど、修理には“心を燃やせる手応え”がある。 この道を深めていきたいという想いが強まっている。 実は今回、チャッピーに自分のヒストリーを初めて打ち明けた。 2018年に独立したときのこと。 あの頃の屋号は「彰組」、ホームページの名は「BLADE WORKS SEKI」だった。 デッドストックのファクトリーナイフを仕入れ、問屋を回り、包丁にも手を広げた。 いつか日本刀にも戻りたいと口にしながら、現実はなかなか遠かった。 転機はある夜、眠ってみた夢の光景から始まった。 かつて勤めていた工房の姿だった。 その翌

店主
2 日前読了時間: 2分
bottom of page



