合わせ鞘の現物合わせと古鞘金具の取り外し 東京都Tさま

更新日:6 日前


■合わせ鞘のご相談から始まったご依頼
今回のご依頼の主題は、塗りなしの合わせ鞘を、
御刀の現物に合わせて選んでほしいというものでした。
既製の合わせ鞘は、長さや反り、元幅などが近ければ
何でも使用できるというものではありません。
実際に御刀をお預かりし、いくつかの候補と合わせながら適合するものを探していきます。
今回については、幸い適合する鞘が見つかり、
こちらは特に問題なくご用意することができました。
ところが、お話を伺っていくうちに、もう一つのご相談が加わりました。
「古い鞘から、金具の取り外しだけをお願いすることはできますか」
というものです。
■金具の「取り外しだけ」という仕事
古い鞘から金具を取り外す作業自体は、当店でも珍しいものではありません。
傷んだ鞘から新しく製作する鞘へ、栗形や鐺、返し角などの金具を移植する場合には、
その前段階として古い鞘を分解する必要があります。
そのため、鞘製作や修復の仕事の中では日常的に行っている工程でもあります。
ただし今回は、新しい鞘への移植までを一連で行うのではなく、
古い鞘から金具を取り外すところまでというご依頼でした。
一見すると単純な作業にも思えますが、
古い鞘は完成状態から内部の構造を確認することができません。
どのような方法で金具が固定されているのか。
どこまで鞘木の中へ入り込んでいるのか。
接着なのか、埋め込みなのか。
実際に手を入れてみるまで分からない場合があります。
今回は、その中でも興味深い構造を見ることができましたので、
ご依頼主さまにお願いし、記事として残させていただくことになりました。
■青貝散らし鞘は、できるだけ元の姿を残して
最初は青貝散らしの鞘です。
こちらについては、鐺と鯉口金具はそのまま残し、
必要な部品のみを取り外してほしいというご指示でした。
そのため、鞘本体を極力傷つけないことを優先して作業を行いました。
古い金具の取り外しでは、金具だけを見て作業を進めることはできません。
金具を再利用できても、残すべき鞘を大きく傷つけてしまっては
本来のご希望から外れてしまいます。
今回は「どこを残すのか」が明確でしたので、
その条件に合わせて慎重に分解を進めています。


■黒呂鞘から現れた、台座の着いた栗形と折金
もう一方の黒呂鞘は、青貝散らし鞘とは事情が異なりました。
栗形と返し角金具、いわゆる折金には、
金具の下に台座が着いた構造が採用されていました。
完成した状態では外側からほとんど確認できませんが、
分解を進めていくと、見えている金具だけで完結しているものではないことが分かります。
台座部分が鞘下地へ深く納められており、金具を生かしたまま取り外すためには、
元の鞘木を大きく抉る必要がありました。
こちらについては、ご依頼時に
「金具の再利用を優先し、元の鞘は傷ついても構わない」
という方針をあらかじめ確認していました。
そのため、今回は鞘を残すことよりも、
金具を確実に取り外すことを優先して分解を行っています。
■なぜ、ここまで深く金具を納めるのか
栗形や折金は、単なる装飾ではありません。
栗形には下緒が掛かり、返し角や折金も帯との関係の中で機能する部分です。
つまり、拵の中でも実際の使用時に力の加わる可能性がある部位です。
今回のように金具の下へ台座を設け、それを鞘下地へ深く納める構造には、
表面に金具を取り付けるだけではなく、
より確実に鞘へ保持するための意図があったのではないかと考えられます。
現在、完成した状態だけを見ると、
栗形も返し角も鞘の表面に付いている小さな部品に見えます。
しかし分解してみると、その下には外から見えない工作が施されていました。
表から見える姿だけではなく、その内側まで含めて一つの拵を成立させている。
実用まで考えながら作られていた、先人の工夫を感じる部分です。
もちろん、同じ形状の栗形や返し角であっても、
すべてが今回と同じ方法で取り付けられているとは限りません。
そこも古い拵を扱う面白さの一つだと思います。

■鐺に残された木片も除去
黒呂鞘の鐺については、以前に鞘の先端部分で切断されており、
金具の内部に鞘木の一部が残っていました。
こちらも、今後金具を再利用できるよう、残された木片の除去を行っています。
金具の外観だけを整えるのではなく、
次に使用できる状態まで戻しておくことも、今回の作業の一部です。

■分解して初めて見える、昔の仕事
普段、完成した拵を鑑賞しているだけでは、
こうした部分を見る機会はほとんどありません。
しかし修理や分解を行っていると、鞘塗りの下、
金具の裏側、鞘木の中など、通常は隠れている昔の工作を見ることがあります。
そのたびに、
「こういう方法で取り付けていたのか」
「ここまで手を入れていたのか」
と気付かされることがあります。
同じ栗形。
同じ返し角。
同じ鐺。
外から見れば似た金具であっても、その取り付け方法まで同じとは限りません。
分解という作業は、単に部品を外すだけではなく、
その拵がどのように作られていたのかを逆方向から辿る作業でもあります。
今回の仕事で、改めてそれを感じました。
■ハバキのお色直しも承りました
今回は追加の作業として、ハバキのお色直しも承りました。
経年により緑青が浮いていたため、
ご依頼主さまご自身で一度磨いて落とされていたものです。
その状態から、改めて色上げを施工させていただきました。
ハバキは小さな部品ですが、刀身と拵の間をつなぐ重要な部分でもあります。
表面の色調が整うことで、全体の印象も落ち着きます。
加工前と加工後のお写真も掲載させていただきます。


■「鞘を残すか、金具を残すか」
今回のような古い鞘金具の取り外しでは、作業前に一つ重要なことがあります。
それは、
「元の鞘を残したいのか」「取り外す金具を残したいのか」
という優先順位です。
もちろん、双方を傷つけずに取り外せる場合もあります。
しかし今回の黒呂鞘のように、内部へ大きく食い込む構造の場合には、
どちらも完全な状態で残すことが難しいこともあります。
しかも、その構造は完成した状態からすべて判断できるものではありません。
実際に分解を進めて、初めて分かることもあります。
今回は事前に金具の再利用を優先する旨を確認していましたので、
迷うことなく作業方針を決めることができました。
古い部品を扱う修理では、技術だけでなく、
何を一番大切に残すのかを事前に共有することも重要だと思います。
■ご依頼主さまのご協力があって残せる事例
今回の金具は、分解だけのご依頼でありながら、非常に興味深い事例となりました。
そこでご依頼主さまに、
「良い事例になるため、ホームページで紹介させていただけないでしょうか」
とお願いしたところ、
「自分の金具が例に載るのも面白いですので、掲載も問題ありません」
と快く仰っていただけました。大変にありがたいことです。
当店ではこれまでにも、さまざまな製作や修理の事例をご紹介してきました。
しかし、こうした記事は当店だけで作ることができるものではありません。
大切な御刀や拵をお預けいただき、さらに作業内容を公開することまでご了承いただいて
初めて一つの記録として残すことができます。
今回に限らず、これまで掲載させていただいたすべての製作・修理事例は、
ご依頼主さま方のご理解とご協力があって成り立っています。
今回も貴重な事例をご紹介する機会をいただき、改めて御礼申し上げます。






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