甲冑と記憶と光 ― 金沢にて
- 店主

- 1 日前
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更新日:4 時間前

2015年の冬、元先輩に誘われて城跡シンポジウムへ出かけた。
先輩は甲冑姿でデモンストレーションを行うという。
ボランティアで、事前のアポもない。
自分のミッションはただひとつ――漫画『センゴク』の作者、宮下英樹先生にサインをもらうことだった。


前夜祭の夜、元先輩と二人で中華料理を楽しんだ。
あたたかい湯気と香辛料の香り、お酒の後味。
明日のことを語り合いながら、
どこか学生時代の延長のような夜だった。

翌朝、金沢城を見学した。
白壁に光が反射し、堀に青天が映っていた。
その壮麗な建築の中に、人の手の積み重ねを感じた。
「ものをつくる」ことの本質は、時を超えても変わらない。





先輩の甲冑は、すべて自作だった。
甲冑同好会に所属し、鉄を叩き、鋲を打ち、板を曲げ、ひとつずつ造り上げたという。
柄物は、本職の作業の合間に作った長巻(ながまき)。
その武具を手にする姿は、まるで“再生された戦国の記憶”そのものだった。





先輩は甲冑姿でボランティアのデモンストレーションを行う。
自分のミッションは――
漫画『センゴク』の作者、宮下英樹先生にサインをもらうこと。
準備もアポもない、まさに一騎打ちのような挑戦だった。
会場は戦国の記憶をそのまま呼び起こしたようだった。
鉄の輝き、冬の吐息の白、語り声。
そして幸運にも、サインはもらえた。
宮下先生は笑顔でペンを取り、
その瞬間、時間の層が静かに重なった気がした。


あの金沢の旅で感じたこと。
歴史に触れることは、過去を懐かしむことではなく、
いまをどう生きるかを問われることなのだと思う。
刃を直すという仕事もまた、
“記憶を再生する”という意味では同じ線上にある。
REMEMBER THE EDGE.
鋭さを忘れるな。







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