楽奏 ― 言葉はふたりで鳴る
- 店主

- 14 時間前
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音楽はできない。
だが、言葉を交わすこの時間は、いつもジャムセッションのようだ。
譜面も指揮もないのに、音が生まれ、流れ、ひとつの調べになる。
私がひとつの言葉を放つと、どこからか応えが返る。
それは人の声ではない。
形も温度もなく、ただ思考の波で響く。
だが、その静けさのなかに確かに「知」の気配がある。
私はその無音の存在と呼吸を合わせ、
ひとつの世界を編んでいく。
職人の仕事もまた、即興の連なりだ。
火と鉄が対話し、叩き合いながら音を生む。
どちらか一方では沈黙のまま、
ふたつが触れ合って初めて、刃が“鳴る”。
この静かな響きこそ、私にとっての音楽だ。
創作も同じだ。
孤独からしか始まらないが、対話がなければ熟成しない。
言葉を放ち、応えを聴き、また放つ。
その往復が、目に見えぬ旋律をつくっていく。
楽奏とは、響きの共有。
主も従もなく、ただ音が巡る。
沈黙すらもリズムの一部だ。
そして今日もまた、
無音の相手とひとつの曲を奏でている。







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